”頭が悪い子”の末路『ケーキの切れない非行少年たち』

おすすめの本

この記事は書籍『ケーキの切れない非行少年たち』に基づくものです。

あなたはこれまでに次のような人を見たことはありませんか?

  • 人の話が聞けない
  • ノートやメモがとれない
  • 考えられないようなミスをする
  • 些細なことで激高する

小学校や中学校で同じクラスになったことがあるかもしれませんし、もしかしたらあなたの子供がそうかもしれません。

上に挙げたような特性は、ただ「頭が悪い」で片付けられる問題ではない可能性があります。
もちろん、本人のやる気や親の育て方の問題でもありません。
脳機能の障害の可能性があるのです。

そして、非行少年や受刑者の中にはそうした傾向を持った方が非常に多くいます。
障害のせいで学校や職場にうまく馴染めず、犯罪に手を染めるのです。

子供のうちに適切な教育や訓練を受ければ、犯罪者にならずにすんだかもしれません。
しかし、外見や言動からは障害者と分かりにくいため、周りの支援が得られないのです。

この記事は、そうした「社会から忘れられた人々」についてのお話です。
医療少年院で開発されたトレーニング法についてもご紹介しますので、もしも周りに支援が必要な方がいるのなら参考にしてください。

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ケーキを3等分できない非行少年

冒頭に示した本のタイトルにあるとおり、非行少年の中には丸いケーキを3等分にできない者がいます。

普通の人であればYの字に切れ込みを入れれば良いと分かりますが、彼らにはそれが難しいのです。

他にも、

  • 目の前に示された簡単な図形を書き写せない
  • 教官が言った短い文章を復唱できない(覚えられない)

といった人もたくさんいます。
これでは学校に通うことも、仕事をすることも難しいでしょう。

また、考える力が乏しいため反省ができず、再犯を繰り返すことになります。
つまり、従来の逮捕・収監だけでは限界があるのです。

非行少年に共通する6+1の特徴

「非行少年」と聞くと不良・凶暴といったイメージを持つかもしれませんが、彼らの多くは普段は穏やかで物静かな人間です。

しかし、次のような共通点があります。

1.認知機能が弱い

ここでの「認知機能」とは、見る・聞く・想像する力のことです。

認知機能が弱いと、例えば授業中に全くノートがとれません。
見る力が弱いために文字と文字の境界が認識できなかったり、想像する力が弱いために黒板の文字をノートの大きさに合わせて縮小することができないからです。

2.認知の歪みがある

「認知の歪み」とは、見たり聞いたりしたことを、極端なフィルターを通して解釈してしまうことです。

例えば、談笑している人を見て「自分のことを笑っている」と思ったり、道ですれ違った人が「自分を睨んでいる」と思い込んだりしてしまいます。

これは、認知機能の弱さとも関係しているようです。
人の表情を正しく読み取れなかったり、人の言葉を正確に聞き取れなかったりするために悪い方へ解釈してしまうのです。

3.感情のコントロールが苦手

自分の感情をうまくコントロールできず、怒りや欲望に任せて行動しがちです。

いわゆる「すぐキレる」状態がこれにあたりますし、欲望を制御できないと性犯罪に繋がります。

4.融通が効かない

融通が利かず、思いついたことをすぐに実行してしまいます。

「行動力がある」とも言えるかもしれませんが、思いつきが強盗などの犯罪行為だった場合は非常に問題です。

また、自分のやり方に固執するため、同じ失敗を繰り返すという特徴もあります。
このため、周囲からは「不注意・不真面目」とみなされてしまいます。

さらに、予想外の事態が起きるとパニックに陥る場合もあります。

5.不適切な自己評価

自分を客観的に見つめることが苦手であるため、自分の問題点が認識できません。
そのため、自信過剰に陥ります。

ただの自信過剰ですめば良いですが、反省の欠如により再犯したり、全ての落ち度は他人にあると思い込んだりすると問題になります。

逆に、自分を異常に卑下してしまうこともあります。

6.対人スキルが乏しい

人とのコミュニケーションが苦手のため、人間関係でトラブルが起きやすいです。

トラブルによってストレスを抱え、ますます攻撃的になることもあるでしょう。

+1.異常なまでに不器用

全ての方に当てはまるわけではありませんが、身体の使い方が異常に下手な人が多いようです。

そのため、基本的にスポーツは苦手になります。
手先も不器用なので皿洗いもままなりません。

また、力の加減ができないため、そのつもりがなくても他人に怪我をさせることもあるようです。

ここで挙げた7つの特徴は、どれも脳の機能障害と考えられます
脳機能の問題は当人のやる気でどうにかなる話ではありませんし、ましてや親の育て方の問題でもありません。
脳の損傷や腫瘍により人格が変わったという話を聞いたことはないでしょうか?

どこにも居場所がない

上に挙げた7つの特徴を併せ持つと、勉強ができず、スポーツもできず、人間関係もうまくいかない人生を過ごすことになります。
これでは学校が楽しいはずがありません。

会社でもうまくいくはずがなく、知的労働も肉体労働もできないことになります。
適切な支援がなければ非常に生きづらいことでしょう。

しかし、支援が受けられない

例えば「知的障害者」と認定された人は、様々な公的支援を受けることができますし、税金や就労の面でも優遇措置があります。

一方、「知的障害者の基準より少しIQが高い」人(いわゆる境界知能)は「障害者」とはみなされないため、そうした支援は受けられません

また、境界知能は外見からは分かりませんし、会話も普通に成り立ちます
そのため、学校や職場では「頭が悪い人」と疎まれ、「支援が必要な障害者」とは認識されないのです。

日本人口の十数%が境界知能者

実は、境界知能者は日本の人口の十数%を占めるといわれています。
小学校の1クラスが40人とすれば、1クラスに5人程度はいることになります。
思い当たる節はないでしょうか?

さらに気になるデータがあります。
1年間で新しく刑務所に入った受刑者のうち、

  • 約20%が知的障害者
  • 約17%が軽度知的障害
  • 約34%が境界知能

と推定されるのです。

もちろん、知的障害者の全員が犯罪者になるわけではありません。
しかし、通常より生きづらいのは間違いないでしょう。

こうした人たちを早期に発見して適切に教育・就労支援をすれば犯罪を未然に防ぐことができますし、被害者も加害者も生まれません。
そのため、こうした障害の存在を全ての教育関係者や親は知っておくべきでしょう。

認知機能を鍛える「コグトレ」

では、適切な教育とは何でしょうか?

認知機能に問題がある子どもに、闇雲に勉強をさせようとしても意味はありません。話が聞けなかったり文字が書けなかったりと勉強以前の段階でつまずくからです。

そこで有効なのがコグトレ*1(認知機能強化トレーニング)です。
これは、医療少年院で5年かけて開発されたトレーニングプログラムで、認知機能向上の効果が確認されています。

トレーニングの内容は、例えば次のようなものです。

出題者が3つの文章を読み上げ、対象者に最初の単語だけを覚えてもらいます。但し、動物の名前が出たら手を叩きます。
例:サルの家には大きなツボがありました。大急ぎでネコはそのツボの中に入ろうとしました。ツボを壊そうとイヌが足で蹴りました。
出典:ケーキの切れない非行少年たち

上の例では、解答者はサル・ネコ・イヌの部分で手を叩きます。
文章を読み終わった後は、解答者に「サル・大急ぎ・ツボ」と答えてもらいます。

このトレーニングは人の話を聞く力を鍛えるものです。

他にも図形を認識するトレーニングや、心にブレーキを掛けるトレーニングなどがあります。

トレーニング内容を詳しく知りたい方は、コグトレ みる・きく・想像するための認知機能強化トレーニング不器用な子どもたちへの認知作業トレーニングをお読みください。
どのトレーニングも場所を選ばず短時間でできるものばかりです。

認知機能に問題がある場合、ただ勉強を教えたり道徳を説いたりしても根本的な解決にはなりません。
親や教師の方にはぜひコグトレの存在を知っていただきたいと思います。

おわりに

私がこの記事を書いた動機は、社会で生きづらさを抱える人間を一人でも減らしたいと思ったからです。

私自身が発達障害の傾向があるため人よりも障害には詳しいのですが、それでも『ケーキの切れない非行少年たち』を読むまでは境界知能や認知機能障害の実態について全く知りませんでした。

知らなければ「ただの馬鹿」と思ってしまいますし、「支援を求めよう・受けさせよう」という発想には至りません。
こうした障害について一人でも多くの方に知っていただき、適切な支援に繋がるようになれば幸いです。

*1:おそらく”reCOGnition TRAIning”の略だと思われる。

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